
氷は私たちの身近な存在ですが、その性質にはまだ多くの謎が残されています。近年、国際的な研究チームによって「氷を曲げると電気が発生する」という驚くべき現象が報告されました。
この発見は、雷の発生メカニズム解明にもつながる可能性があり、科学界で注目を集めています。
氷で発見された「フレキソエレクトリック」とは
研究チームは、氷のブロックを金属電極の間に挟み、三点曲げ試験のように力を加える実験を行いました。その結果、氷がわずかに変形すると電荷の偏り、すなわち電気分極が発生することが確認されました。
この現象は「フレキソエレクトリック」と呼ばれ、物質を曲げたりひずませたりすると電気が生じる性質です。
従来知られていた「圧電効果」が結晶構造に依存するのに対し、フレキソエレクトリックはより普遍的に起こりうるため、氷のような一見非対称性を持たない物質でも成立します。
実験が示した氷の電気特性
実験では、氷を1.8~2.2ミリの厚さに加工し、変形の度合いと発生する電荷を同期して計測しました。その結果、氷のフレキソ電気係数は一部の工業用セラミックスに匹敵する可能性があることが分かりました。
また、温度によって効果の強さが変わることも確認されています。特にマイナス113℃付近では氷の表面に強誘電性の振る舞いが見られるという報告もあり、単なる低温物質ではなく、奥深い電気的性質を秘めていることが浮き彫りになりました。
雷との意外な関係
この発見が大きな意味を持つのは、雷の発生メカニズムとの関係です。雷雲の中では、氷やあられの粒子が衝突して電荷が分かれることで巨大な放電現象が生じます。
しかし、氷そのものは圧電性を持たないと考えられていたため、なぜ電荷が生じるのか長らく謎でした。
研究チームは、氷粒子の衝突をモデル化し、フレキソエレクトリックによって発生する電荷を計算しました。その結果、これまで観測されてきた電荷移動量とよく一致することが分かり、雷の起源を説明できる可能性が示されました。
まだ残されている課題
一方で、この現象には未解明の部分も多くあります。実験室で観測される電荷は非常に小さく、実用的な電力源になるとは考えにくいです。
また、氷の相の種類や環境条件によって効果が大きく変わるため、自然界の複雑な気象現象を完全に説明できるかどうかは今後の研究次第です。
まとめ:氷の可能性はまだ広がる
氷を曲げると電気が生まれる――一見信じがたいこの現象は、私たちが知る「氷」のイメージを大きく変える発見です。雷の謎解明につながるだけでなく、将来的には新しいエネルギー変換材料のヒントになるかもしれません。
身近な自然物に潜む未解明の性質が、科学の最前線で再び脚光を浴びています。